MAIKO物語

物語2 出会い物語1 小さな生命体物語6 8月の花嫁物語3 スイゼンジノリの世界物語4 不思議な物質物語5 超・超・巨大分子

サクランは、長い年月の流れを経て、太古の世界から、現代を生きる私たちに届けられた自然の贈り物です

物語1 小さな生命体

30億年前の地球。
人間はもちろん、動物も草も木も存在しない静かな世界で、黙々と酸素を放出している生物がいました。
単細胞微生物の"らん藻"です。

"らん藻"は海の中にいましたが、ほかの生物もみな海中で生存していました。太古の地球には、有害な紫外線から生命を守ってくれるオゾン層がなかったため、生命体は陸上では生きられなかったのです。

そんな、今とは全く環境の違う地球で、初めて、大規模な光合成により二酸化炭素を吸収し酸素を放出した生命体が"らん藻"でした。

そして"らん藻"が増えると、海中の酸素が増え、やがて大気中への酸素の放出が本格化し、今から約5億年前にはオゾン層が形成されました。これにより、生物は初めて、陸上への進出を果たしたのです。

その後、たくさんの植物や動物が現れて、"らん藻"の存在感は小さくなって行きましたが、現在もさまざまな種類の"らん藻"が、地球の多様な生態系のなかで生き続けています。

MAIKO物語の主人公"スイゼンジノリ"も、そんな"らん藻"の仲間です。
"住所"は、九州は阿蘇の火山灰の堆積層を通って流れる清流ですが、いつ、どのようにして海から淡水に引っ越したかは、不明です。

物語2 出会い

21世紀の初め、もうひとりの主人公"MAIKO"は、生分解性プラスチック(微生物により分解されるプラスチック)の原料となるポリフェノールの抽出に取り組んでいました。

"MAIKO"は、「植物や微生物などを資源として新しい素材や製品を作ろう」とする「脱石油」をめざす研究グループの一員でした。
研究グループは、プラスチックのなかでも工業製品の部品になるような、硬くて耐熱性の高いプラスチックをつくる研究をしていましたが、ポリフェノールを効率よく抽出できる「資源」をみつけることが大きな課題でした。

植物では、サツマイモのツルや焼酎かすなど「捨てられているもの」からの抽出を試みた話も聞きましたが、効率的な抽出が難しく、微量しか得られないようでした。

「微生物からの抽出はどうだろうか?」
最近、微生物(バクテリア)のもつ力への注目が高まっています。
「原始的」な微生物には、人間には真似できない「匠の技」と「働き」があります。ものを作ったり、分解したり、分離したり、吸収したり…。培養で増やすことも可能です。増殖力が高ければ、量の確保の問題もクリアーできるかもしれません。

"MAIKO"は、微生物のなかでも、細菌などより植物に近い"らん藻"に注目し、らん藻からのポリフェノールの抽出実験を始めました。
ところがその直後に、大学で「スイゼンジノリという面白いらん藻がある。淡水性のらん藻で、養殖はできても培養できない」という話を聞きました。

「淡水性らん藻スイゼンジノリ? スイゼンジ・ノ・リ? あっ!」
「スイゼンジ」は"MAIKO"の故郷熊本の水前寺。スイゼンジノリは熊本の伝統食材でした。
増殖力の高いスイゼンジノリは、ポリフェノール抽出の有力候補になるかもしれません。

"MAIKO"が「らん藻としてのスイゼンジノリ」の存在を知ったとき、福岡県で長年スイゼンジノリの養殖販売に携わってきた「喜泉堂」は、いくつかの大学に「"スイゼンジノリ"の価値が認められるような研究をしてほしい」というメールを送り続けていました。

「喜泉堂」がスイゼンジノリを育てているのは「黄金川」という清流ですが、水量の減少と水質の悪化で生産量は減る一方でした。上流には新しいダム建設の計画もありました。

スイゼンジノリは鉄分やミネラルが豊富な健康食材ですが、「喜泉堂」には、「スイゼンジノリには健康食材にとどまらない<力>がある。それを証明し、もっと世の中の役に立てれば、スイゼンジノリだけでなく、それを育む黄金川の環境保全にもつながる。」という強い信念がありました。しかし、研究委託のメールを出した大学からの返事はありませんでした。

そんなとき、「喜泉堂」にスイゼンジノリについて問い合わせをした研究者が"MAIKO"でした。
"MAIKO"は、太古の時代からひっそりと奇跡のように生きのびてきたスイゼンジノリの話を聞いて、スイゼンジノリに強い興味を覚え、黄金川に行ってみることにしました。

物語3 スイゼンジノリの世界

"MAIKO"の見た黄金川は、田畑や民家の近くを流れる、懐かしい里の川でした。
清らかな流れには、スッポンにうなぎ、メダカ、ホタルの幼虫、カワニナなどたくさんの魚と虫たち。そして、川の水を採って顕微鏡で見てみると、そこには驚くほど賑やかな微生物の世界が広がっていました。
"MAIKO"は、小さな小川に「宇宙」を感じました。
こんなに豊かな「川の力」をもらって育つスイゼンジノリには、本当に秘められた力があるかもしれません。

しかし、「喜泉堂」は言います。
「昔と違って、今では、ごみを取り除いたり遮光をしたり、いろいろ手をかけないとスイゼンジノリは生きていけなくなりました。このままダム建設の計画が進められれば、あと4年もすれば絶滅してしまうでしょう。そうなる前に、スイゼンジノリの価値が広く世の中に認められて環境保全の動きが高まるよう、研究成果を出してほしい。」

「あと4年」という言葉が、"MAIKO"の耳に残りました。それが本当ならもうあまり時間はありません。
「一刻も早く、スイゼンジノリから有用な物質をみつけなければ」
気持ちを固めた"MAIKO"は、早速スイゼンジノリからポリフェノールを抽出する研究を開始しました。

物語4 不思議な物質

ところで、スイゼンジノリは単細胞微生物ですから、とても小さくて、細胞本体は顕微鏡でなければ見ることができません。そんなスイゼンジノリがプヨプヨしたかたまりとなって浮いたり沈んだりする様子を見られるのはなぜでしょう?
それは、細胞体の周りを覆って護っている寒天質が、細胞体を集合状態に保つはたらきをしているからなのです。

スイゼンジノリからポリフェノールを抽出する過程では、この寒天質を大量に捨てていたのですが、あるとき、ビーカーを洗わずに帰宅した"MAIKO"は、翌日ビーカーを見てびっくりしました。
ビーカーからゼリー状の不思議な物質が溢れているのです。気を利かせた学生が「あとで洗いやすいように」と、ビーカーに水を入れておいたところ、残っていた寒天質がその水を吸収して膨らんだようです。

スイゼンジノリにはやはり何かありそうです。
"MAIKO"は、スイゼンジノリについて本格的に調べてみることにしました。

物語5 超・超・巨大分子

スイゼンジノリの寒天質がデンプンのような「多糖類」でできていることは、ポリフェノール抽出の段階からわかっていましたが、スイゼンジノリの「多糖類」を抽出してみると、繊維状の物質が得られました。そしてさらに調べてみると、繊維状の物質は、新発見の多糖類であることがわかりました。

この新規多糖類は、スイゼンジノリの種名であるsacrumの語尾umを、「多糖類である」という意味の接尾語anに置き換えて、sacran(サクラン)と名付けることにしました。

サクランについて研究を進めてみると、面白い事実が次々に判明しました。
まず第一は、サクランの大きさです。サクランのような多糖類は「巨大分子(高分子)」のひとつで、巨大分子の大きさを表すのに「分子量」という値が使われます。
保湿剤として有名なヒアルロン酸や、マヨネーズの増粘剤として使われるキサンタンガムも多糖類で、その大きさから「超巨大分子」と呼ばれますが、分子量は200万くらいです。

では、サクランはどのくらいの分子量なのでしょう?
測定してみた結果、サクランの分子量は1600万という信じられない値となりました。ヒアルロン酸が「超・巨大分子」なら、サクランは「超・超・巨大分子」ということができます。
また、サクランの保水力は、他の多糖類と比べても群を抜いていました。「水をグッとつかんで離さない」というイメージです。数字の上では、純水で自分の重さの6000倍の水を吸収し、肌に近い生理食塩水でも2400倍の保水力を示しました。
(北陸先端科学技術大学院大学調べ)

さらに、サクランの水溶液を塗り広げると、サクランの細長い分子が網目状に広がり、均一の薄い膜をつくって、肌を保護することもわかりました。サクランの保水力と皮膜形成力は、化粧品、食品、紙おむつ、医療などの多様な分野での実用化が期待できそうです。

そしてもうひとつ、サクランには、「特定の希少金属が付着するとゼリー状に固まる」性質があることも判明しました。実用化できれば、希少金属の効率的な回収につながります。

ポリフェノールからプラスチックを作ろうとしていた"MAIKO"は、別の、全く新しい"生物資源"を発見したのです。

物語6 8月の花嫁

「サクランの発見」は学会で発表され、サクラン関係の取材も増え、サクランの認知度も少しずつ高まっていきました。

サクランの抽出という困難な作業を引き受けてくれる会社や、サクランという新しい素材を使った化粧品の製造に挑戦してくれる会社もみつかって、商品化が進められました。

ブランド名は"MAIKO"。
サクランの良さを活かした、シンプルで使い心地のよい、石油系合成物フリーの基礎化粧品シリーズです。
そして、"MAIKO"と同年代の、30代から40代の女性を中心に、サンプル化粧水を配り反応を見てみることにしました。
すると、いつの間にか、サクランの化粧水を使う人の年代が広がり、使われ方もさまざまであることがわかってきました。

ブラスバンド部で唇が荒れる中学1年生の女の子。
首のしわが気になる60代の女性。
乾燥肌用の全身ローションとして使う50代の男性…。

化粧水の発売を待つ人のなかには、「花嫁の父」もいました。
肌荒れを気にし「このままでは8月の結婚式でドレスが着られない」という娘のために、半年間、毎月、サクランのサンプル化粧水を取りに来たお父さんです。

"MAIKO"は、そんな人たちの声を励みに、今日も、"MAIKO"のローションパックで肌をいたわりながら、サクランの研究に没頭しています。

"MAIKO"の夢は、サクランがもっともっと世の中の役に立つようになること。
"MAIKO"シリーズはその第一歩です。